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- 歯科医院の経営 -

2018.05.01 歯科医院を安心して経営していくために

医療機関が取り組むべきリスク

損害保険ジャパン日本興亜株式会社
南東京支店渋谷第一支社
特命課長 藤木 洋平

 
 

■医療機関が取り組むべきリスク

前回に引き続き、歯科医院を安心して経営していく上で取組んでおくべきリスクヘッジについて説明させていただきます。医療制度の見直しや診療報酬改定、高度情報化社会への対応、働き方の多様化など社会の情勢変化に伴い、「歯科医院経営」を取り巻く環境は大きく変化しており、経営者は様々なリスクに対する対応手段を講じる必要があります。医療機関を取り巻くリスクは以下のようなものが考えられます。

 


 
【参考文献】
「医療・介護施設経営入門シリーズ6 医療・介護施設のためのリスクマネジメント入門」(じほう社)

 

歯科医院経営を取り巻くリスクの中で、そのリスクが具現化した時の損害額(ロス)がある程度予測できるもの、または高額とならないものについては、内部留保などの手段でリスクヘッジすることも可能です。しかしリスクが具現化した時の損害額(ロス)の予測が困難なもの、または高額となることが予想されるものについては、保険加入によるリスクヘッジが適していると言えます。
 
 今回は、歯科医院経営を取り巻くリスクに対応する保険商品として、「所得補償保険」・「医師賠償責任保険」・「個人情報漏えい保険」・「雇用慣行賠償責任保険」の概要についてご説明します。歯科医院経営において最も基本的かつ重要な「所得補償保険」・「医師賠償責任保険」に関しては前回と重複のご説明となりますが、今回追加でご説明させていただく「個人情報漏えい保険」・「雇用慣行賠償責任保険」は、先生方には今まであまり馴染みはないかもしれませんが、いずれも歯科医院経営を取り巻くリスクという意味においては決して無視してよいものではありません。
 
 個人情報保護法も昨年5月まででしたら、保有している個人情報が5,000件を超えていなければ対象事業者となりませんでしたが、法改正によりこの要件が撤廃された以上、全ての歯科医院が個人情報取扱い事業者として対象となってしまいましたし、労使間の問題等は、表面に出てきていなくとも実は多くの歯科医院が内在するリスクとして抱えている問題です。
 
 いずれも具体化した段階では、歯科医院経営に与えるインパクトの大きなテーマですので、この機会にしっかりと認識していただくと共に、リスクに対する備えをご検討いただきたいと思います。

 
 

■所得補償保険

歯科医院を経営される方が一番に考えるのは、金銭面での安定です。取り巻く環境が変化していく中、内装・歯科医療機器の購入などに伴う金銭返済を行う一方、子どもの誕生、将来への学費への備え、マイホーム購入などのライフイベントを考えると、歯科医院を安定的に経営していくことに対する不安は、いくら準備をしていても尽きないものかと思います。
 
 経営者として健康に働くことができている間はあまり考えることがないかもしれませんが、万が一急に病気やケガで入院してしまった場合、収入の減少は避けることができず、安定的な黒字経営は困難となってしまいます。
このような時に歯科医院経営者の助けとなるのが、「所得補償保険」です。
 
所得補償保険は、病気やケガで入院した場合、医師の指示による自宅療養を余儀なくされた場合で、業務に全く従事できなくなった際に、月々の所得を補償する保険です。所得とは、勤労によって得られる所得をいい、収入利息は含みません。
 
 通常保険契約時に月々の所得を確認した上で保険金額を設定し、万が一保険金を支払う事象が発生した場合には、就業不能期間に応じて保険金が支払われます。「世界中・24時間」いつでも補償対象となり、業務中・業務外、国内・国外問わず補償の対象となります。趣味であるスキーをしている最中に転倒して腕を骨折、歯科医師として業務ができなかったという場合も補償の対象となります。
 
 また、所得補償保険に加入する際には、医師の診査は必要ありません。所得補償保険では所定の告知書の質問事項にお答え頂くことで加入することができます。
(ただし、告知内容によっては、保険加入できない場合や、特別な条件付きでの加入となる場合があります。)

 

 

■医師賠償責任保険

歯科医院経営において最も避けなくてはならない「歯科治療中の事故」に伴うリスクに対応する保険が「医師賠償責任保険」です。歯科医院を経営されている方がこの保険に未加入というケースは無いかと思いますが、ここでは改めて「医師賠償責任保険」についてご説明します。通常、歯科医院経営者が加入する「医師賠償責任保険」は、医師賠償責任保険と施設賠償責任保険がセットされたものとなっています。それぞれの保険金支払い事例は下記の通りです。

 
【医師賠償責任保険】
治療業務の遂行に起因して、患者さんの身体・生命を害した場合に、歯科医院経営者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。
 
①診断を誤ったため、患者さんの症状が悪化してしまった。
②治療ミスにより、患者さんが後遺症を負ってしまった。

 
【施設賠償責任保険】
医療施設の欠陥や医療行為以外の仕事の遂行またはその結果に起因する事故により、歯科医院経営者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。
 
②自動ドアが故障していたことにより、患者さんが挟まれてケガをしてしまった。
③床にワックスをかけすぎて滑りやすくなっていたために、患者さんが転んでケガをしてしまった。

 
 医療事故による訴訟は近年増加の傾向にあります。その理由としては、SNSなどの普及により患者さんは簡単に多くの情報を収集することが可能となり、患者さん側の考え方が成熟し、諸外国並みに患者さんの権利を主張することができるようになったことが挙げられます。
 
 訴訟が原因で廃業に追い込まれる医療機関もありますので、社会環境が変化していく中、今一度加入されている「医師賠償責任保険」の補償内容・保険金額を確認しておくことをお勧めします。

 
 

■個人情報漏えい保険

 
 歯科医院を取り巻くリスクの中で患者さんの個人情報漏えいに係るものも、万が一リスクが具現化した際には歯科医院の安定経営を揺るがす可能性を秘めています。医療機関で取り扱う個人情報は、過去の病歴や生活習慣、遺伝子情報など極めてプライバシー度の高いセンシティブな情報が多くあります。また、医師法第24条により医療機関では「カルテの5年間保管」が義務付けられているため、個人情報が蓄積されることによるリスクも抱えています。
 
 医療機関が保有する個人情報の例としては、診療記録、処方箋、患者個人情報、生活習慣、マイナンバー、保険証番号などが挙げられます。
 
 「個人情報漏えい保険」は、万が一個人情報の漏えいまたはそのおそれが生じたことにより、歯科医院経営者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。
具体的な保険金支払い事例としては、
 
①患者さんの診療情報が入ったパソコンが診療所内で盗難に遭ってしまった。
②診療所で使用しているコンピューターがハッキング被害に遭い、患者さんの個人情報が抜き取られてしまった。
 
などのケースが考えられます。
 
 個人情報漏えいに関する事故は、経営者・従業員が細心の注意を払っていても上記のように盗難など外的要因により発生してしまうことがあります。また、歯科医院が取り扱っている個人情報の特性上、万が一情報漏えいが発生した際の賠償金が高額となる恐れがあるため、十分な備えが必要と言えます。

 
 

■雇用慣行賠償責任保険

 
 近年、歯科医院経営においてもグローバル化による文化的規範や社会的基準の融合、あるいはアウトソーシングなど新しい雇用形態の一般化により、雇用関連のリスクはより複雑化しており、このリスクに対する備えが必要となっています。また、日本国内における雇用関連の訴訟件数は急激に増加しており、経営者が抱える雇用関連のリスクは高まっています。
 
 「雇用慣行賠償責任保険」は、歯科医院経営者が使用人または就労希望者に対して行った雇用上の差別、セクシャルハラスメントまたは不当解雇が原因で、法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険です。雇用上の差別やセクハラは経営者側ではなく、従業員(受け手)側がどう受け止めるかにより判断されるケースが多く出てきています。「自分はそのようなことをしたことはない。だからそのようなリスクはうちには関係ない」と思わずに、一度この多様化した雇用関連のリスクについて考えてみましょう。
 
 今回ご案内した各種保険について詳しい説明をご希望の方は、弊社および株式会社ジャパンデンタルまでお問い合わせ下さい。

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